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漬け物文化をもっと身近に。江戸時代から続く「伊勢たくあん」を今に守る「林商店」

漬け物文化をもっと身近に。江戸時代から続く「伊勢たくあん」を今に守る「林商店」

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漬物店「林商店」400年以上前から伝わると言われている「伊勢たくあん」。その製法を今も守り続けているのが、老舗の漬物店「林商店」だ。


古くから大根農家の副業としてつくられてきた伊勢たくあんだが、戦争時の食糧不足につき保存性の高い食品の需要が伸び、国の命令で、米よりもたくあんづくりを優先するように。終戦後も、味がよく保存期間が長い「伊勢たくあん」を求める人は多く、伊勢を代表する名産品となった。


伊勢たくあんの原材料となる大根は、三重県の伝統野菜「御薗大根」のみ。ナスの葉、柿の皮、唐辛子などを混ぜ合わせた米ぬかに、2年以上じっくり漬け込んで完成する。一般的なたくあんには黄色の着色料が使用されていることが多いが、林商店の伊勢たくあんにはウコンが使われている。 


漬物店「林商店」
全国的に「伊勢のお香々(こうこう)」とも呼ばれる「伊勢たくあん」 


「と言っても、ウコンそのもので黄色く染めているのではなくて、ウコンを入れることによって御薗大根がもともと持っている黄色を引き出してくれるんですよ」


そう教えてくれたのは、みんなから「お母さん」と呼ばれ親しまれている、林商店代表の林和代さんだ。

漬物店「林商店」林商店代表の林和代さん。後ろに写る巨大な木樽には、伊勢たくあんが漬け込まれている


昭和32年(1957年)には4斗樽(72リットル樽)70万樽もの伊勢たくあんが生産されていた伊勢地域だが、食生活の変化や御薗大根の生産者不足などを背景に、たくあんづくりを手掛ける農家は減少の一途をたどっている。林商店は、当時から続く伊勢たくあんの味を今に伝えてくれる貴重な存在だ。VISONの店以外に直営店はなく、百貨店やインターネットでも購入することができる。

当初は、VISONに出店するつもりはまったくなかったという林さん。


「家族だけでやってる小さな会社だから、店を出すのは難しいかな…と。時代的に、そろそろこの商売を続けるのも難しそうだと思い始めていた頃でしたし。でも、いくらお断りしても何度も(VISONの)立花社長が店に来てくれて『この味はぜったいに残したい』って言うんですよ。なんでお店を出してほしいのって聞いたら『僕が食べたいから出してくれ』って。最後は根負けですね(笑)」

「こういった取材を受けると、きっと『漬物のよさをもっと世の中に知ってほしいですね』と言われたりするけれど、私としてはそんな大層なことは思っていなくて、『食べたいならどうぞ』という感じなんです(笑)だって、昔からつくっているものですからね。やっていることは何も変わっていないんですから」

伊勢たくあんと並んで、季節の野菜の「ぬか漬け」も林商店の人気商品。毎日、食べ頃の野菜がぬか床に浸かったまま店頭で販売されている。林さんにぬか床づくりのコツをたずねると、きっぱりと「コツなんて何もないですよ」と返ってきた。


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ぬか漬けは、ぬか床に漬かったまま店頭で販売する


「昆布を入れたらいいとかヨーグルトを足したらいいとか、世の中にはいろんなレシピがありますけど、うちのぬか床の調味料は塩や唐辛子、山椒など本当に古くからある一般的な作り方です。大切なのは毎日ちゃんと見ること。赤ちゃんの面倒とおんなじですね。朝晩ぬか床を返して、味を見て、その時々で手を加えるだけ。漬け込めるようになるタイミングも、ぬか床によって違います。お店に並んだときにいちばんおいしい状態じゃないといけないですから、本当に、毎日毎日が勉強です」


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ぬか漬けを串に刺した「漬け物棒」は、VISONでの食べ歩きにぴったり


伊勢たくあんの伝統製法を体験できるイベント

伝統的な伊勢たくあんの作り方には、御薗大根を天日と風にさらして自然乾燥させる「稲架(はさ)掛け」の工程が欠かせない。そうすることで大根の水分が抜け、漬け込んだときに味が染み込みやすくなる。林商店では稲架掛けの一部を店の前でおこなっており、木枠に沿ってびっしりと干された御薗大根は、冬のVISONの風物詩にもなっている。

23c-hayashi1009_9.jpg稲架掛けで干される御園大根


2022年12月。伊勢たくあんを身近に感じてもらいたいと、地元の方を招いて「漬け込み体験」がおこなわれた。まずは干し終えた大根の葉をすべて切り落とし、束ねて取っておく。大樽の中に大根とぬかを交互に敷き詰めたあと、最後に束ねた葉を上に敷き詰め、重石を置く。大根の太さや重さ、ぬかの状態を見極めながら細かく調整を重ねる林さんの姿は、まさに職人。あとは、味が染み込むのをじっくりと待つ。

続いて、2023年7月には「樽出し体験」が開催された。2年以上漬け込んだ樽から大根を一段ずつ取り出し、樽の下に設けられた作業スペースへ。大根をしごいて余分なぬかを取ったあと、サイズごとに分けてかごに敷き詰めていく。 


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店のシンボルにもなっている大樽は酒屋から譲り受けたもので、作られたのは100年以上も前


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大根に付いた余分なぬかを、丁寧に取り除いていく


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大根をサイズごとに分けてカゴに敷き詰める

林商店の本社スタッフ2名も駆けつけ、参加者に指示を出しながら手際よく作業を進める。そのそばから、大根の漬かり具合やぬかの手触り感、香りなどを、林さんが厳しくチェック。たくあんや葉をかごに敷き詰めるときには、林さんから「商品になるんだから、丁寧に、きっちりと」と指導が入る。


大根の出来、干し具合、気温や湿度を見ながら、細かな微調整によって完成する、林商店の伊勢たくあん。林さんが意識しているのは、いつ購入した人にとっても、できるだけ同じ味を届けること。手作業だからこそ、一つひとつの作業の丁寧さが安定した美味しさにつながる仕上がりの差となってあらわれるのだと実感させられるイベントとなった。


昼食には林さんの手料理がふるまわれ、参加者全員でこの日の作業を労い合う。素朴ながらも丁寧な仕事が光る料理はどれも絶品で、「お母さんの料理を食べるために、来年も手伝いたい」との声も。商品を手に取るだけでは見ることのできない価値を実感できる、いい機会となったに違いない。

お客さまの声から生まれた「伊勢たくあんふりかけ」

らっきょう、キムチ、梅干しなど、伊勢たくあん以外の商品にもそれぞれ根強いファンがおり、それらすべてを林さんが監修している。なかでも、老若男女を問わず人気を集めているのが「伊勢たくあんふりかけ」だ。細かく刻んだ伊勢たくあんに米ぬかや白ごま、大根葉を加えた本商品は、ふりかけとしてのみならず、おにぎり、チャーハン、納豆、お茶漬けなどさまざまな食べ方で楽しめる。

23c-hayashi1010_10.jpg伊勢たくあんふりかけ(左)はVISON Online Shopでも購入可能。開封前は常温保存が可能なので、おみやげとしても人気



数十年にわたり伊勢たくあんを購入してくれているお客さまから「歯が弱くなってしまいそのまま食べるのは難しくなってしまったけれど、どうしても伊勢たくあんを食べたいからミキサーで細かく刻んで食べているんですよ」と聞き、それをヒントに「細かく刻んだ伊勢たくあんを商品化しよう」と思い立った林さん。加工方法や味のバランスなど試行錯誤を繰り返し、完成したのは、発案から実に2年半後のことだった。

「漬け物のふりかけって、全国どこにもないんですよ。保存料を使わずに常温保存ができる漬け物の商品をつくりたいって言ったときはまわりに呆れられたけど、なんとかこうして販売することができました。やっぱり、みんなに食べてほしいという気持ちがあったから、カタチにできて本当によかった。食べたいけど食べられないっていうのは本人も辛いでしょうし、わたしたちもさみしいですしね。お年を召した方に届けられたらと思っていたけれど、若い人たちもたくさん手に取ってくれてうれしいです」

漬け物を販売するだけでなく、伊勢たくあんをはじめ、漬け物文化を広く発信する役割も担ってきた林商店。「新鮮な野菜を切って、パラパラっと塩を振ってしばらく置けば、それはもう漬け物なんです。いろいろ方法はあるけれど、結局は漬け物って、野菜のおいしさを引き出してくれる食べ方なんですね」と林さん。

VISONでの購入を機に、新しいファン層が徐々に広がっている林商店。「漬け物が苦手」だと思っている人こそ、一度食べてみてほしい。きっと、日本に漬け物文化が根付いてきた理由がわかるはずだから。 


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