VISON Beautiful Village in TAKIVISON Beautiful Village in TAKI

VISONに誕生した〈サンセバスチャン通り〉。
バスク文化の真髄を伝え、多気町を美食の聖地へと導く発信源に。

VISONに誕生した〈サンセバスチャン通り〉。
バスク文化の真髄を伝え、多気町を美食の聖地へと導く発信源に。

続きを読む

美食と聞いたらいても立ってもいられないほど、世界でも圧倒的な吸引力を持つ地域がある。スペインのバスク地方、サンセバスチャンだ。そこへ一度でも行ったことのある人なら、誰もが皆、うっとりとした表情を浮かべながら、何がどれだけ美味しかったのか、この街の素晴らしさを熱く語り出して止まらない。
美食家にとってはまさに桃源郷のような地・サンセバスチャン。まるでかの地にいるかの様に美食を存分に楽しめ、限りなく本物を追求したレストランが、VISONに誕生した。しかしそこに至るまでには、現地の案内役として多大に支えてくれた人物の存在が欠かせなかった。サンセバスチャンのあらゆることを知り尽くし、多気町との橋渡しにも尽力していただいた、バスク出身の美食ジャーナリスト・ホセマ・アスペイティア氏と、現地在住の美食プロデューサー・山口純子氏だ。彼らに、これまでの経緯やバスクの食の魅力、VISONの未来に期待することなどを伺った。 

S66740256_7.jpg


美食を通じた真の友好を実現するために

スペイン・サンセバスチャンと、VISONのある三重県多気町は、2017年1 月に「美食を通じた友好の証」を締結。それを記念し、VISON内に〈サンセバスチャン通り〉が出現した。この通りにはバスクの3つのレストランとスイーツ店が仲良く並んでいる。レストランはいずれも現地の人気店であり、初の海外出店である。

〈ARATZ(アラッツ)〉は、サンセバスチャン市長もお勧めだという伝統的なバスク料理を提供する店で、椅子とテーブルが用意され、ゆっくり食事を楽しめるようになっているが、他の2店の〈Zazpi(サスピ)〉と〈Casa Urola(カーサウロラ)〉は、カウンターとハイテーブルだけの立ち飲みスタイル。気軽にピンチョスをつまみながらさっと飲む、現地のバルのような雰囲気をリアルに体験できる。店毎にそれぞれ違った個性を持っているため、せっかくなら3軒ハシゴしたいという気分になってしまう。現地同様バルホッピングが楽しめるのだ。
ちなみにスイーツ店〈Egun on(エグノン)〉では、日本で有名になったバスクチーズケーキとはまた一味違う、ブルーチーズをほんのり上品に効かせた大人のチーズタルトを提供。サンセバスチャン郊外にある名店〈Zuberoa(スベロア)〉の名物として、現地では大変人気の高いチーズタルトのレシピをベースにしている。絶妙なトロッとした食感とチーズの深いコク、程よい塩味が堪らなくワインを誘う。 

aratz_photo_2.jpg
左:ホテルヴィソン内レストラン「IZURUN」 インテリアスタイリング 中原 慎一郎氏(ランドスケーププロダクツ代表) 右:ARATZ シェフ Xaqbier氏
S66740245_3.jpg
左:パティシエ 辻口 博啓、中央:casa urola シェフ Pablo Loureiro氏、右:株式会社アクアイグニス代表取締役 立花 哲也
S66740275_4.jpg   

このように魅力的な店が並んでいるサンセバスチャン通りだが、多気町とサンセバスチャンは、最初から簡単に友好関係が結べたわけではない。サンセバスチャンはもう随分前に香川県丸亀市と既に姉妹都市を結んでいた。さらに美食の街として世に知れ渡っているサンセバスチャンは、世界中の様々な都市から姉妹都市提携のオファーが殺到していた。スペインの小さな地方都市であり、真面目で勤勉なバスク人は、どちらかといえば人見知りで簡単に心を開かない。VISONの代表である立花哲也が最初はスペイン大使館を通じて提案を試みたところ、あっさり断られてしまったそうだ。
それでも諦めなかった立花は現地を何度も訪ね、バスクの伝統文化を吸収した。食を軸とした地方創生の世界モデルともいえるこの都市に学ぶものはたくさんあると感じていた。立花の訪問をサポートし、現地を案内してくれたのがホセマ氏と山口氏だった。立花がついに多気町長を連れて、サンセバスチャン市長に会いに行き、三重県の食の素晴らしさ、多気町を食の聖地とする美食街構想、両地域が食を通じて多様に交流していきたい旨等、市長の前で熱弁を奮っていた時にも二人は同席していた。当時の印象をホセマ氏はこう語る。 「サンセバスチャンが観光都市として他と一線を画しているところは何かというと、その政策を真面目に真剣に取り組んできたということです。何でもかんでも大量に受け入れるのではなく、厳選して、それを本当に望んでいる方へ向けて、その魅力を研ぎ澄ました発信を行ってきました。そういった背景のある中で、立花さんの話は非常に真剣で本気の姿勢が感じられ、市長も思わず署名したくなるような、心を動かされる要素がたくさんありました」 山口氏も「姉妹都市とは違う、『美食を通じた友好の証』というアプローチの仕方は論理的で納得のいくもので、これならいいなあと素直に共感できる内容でした。このプロジェクトについては現地のマスコミにも取り上げられ、サンセバスチャン市民も大いに期待しています。非常に夢のあるプロジェクトだと思います」と話す。 かくして立花の熱心な思いは市長に通じ、なんとその場で協定書にサインを入れてくれた。この驚きのエピソードが、今のVISONに繋がっていったのだった。 

14485009494046_5.jpeg
サンセバスティアン市 エネコ ゴイア市長(中央奥)との会談の様子


三重県はバスク地方に負けていない、美食を誇れる地域

サンセバスチャンをこよなく愛し、街に誇りを持っている二人だが、三重県の食や地域性についてはどのように感じているのだろうか。ホセマ氏も山口氏もかつて実際に三重県を訪ねたことがあり、海山の幸を味わって驚いたというのだ。
(ホセマ氏)「サンセバスチャン同様、三重県も闇雲にただ人を集めるのではなく、しっかり厳選して方向性を定めた観光を行っている印象がありました。特に美食に重点を置いていることが強く感じられ、好印象を持ちました。地域の素材や伝統文化を大切にしつつ、いわゆる寿司などの日本食ではないものでも、素晴らしい料理をたくさんいただくことができました」

(山口氏)「私もホセマさんも長年バスク地方の良いものを日本に紹介してきました。この地域の食の魅力は何といっても海の幸、山の幸がたくさんあって同時に楽しめることなんです。それが三重県に行ってみたら、全く同じだった!松阪牛はもちろん、上質なお野菜もたくさんあって、伊勢海老やアワビを筆頭にあらゆる海の幸もある。自慢できる食材の宝庫だったんです。もし日本にずっといたら気づかなかったかもしれないのですが、私は外国人の目線で見て、その素晴らしさに驚きました。バスクと比べても遜色ないくらい、美食を誇れる地域だという印象を受けました」 

VISONでバスク料理レストランの全体を統括するのは、中武亮シェフ。サンセバスチャン通りのレストランの他に、ホテルVISONの最上階にある、バスクと日本の友好をテーマにしたメインダイニング〈IZURUN(イスルン)〉で腕を振るう。中武シェフは10代の頃からスペイン料理に魅せられ、函館のバスク料理の草分け的存在で、スペイン料理界の巨匠であるルイス・イリサール氏に薫陶を受けた料理人・深谷宏治氏の店〈レストランバスク〉で修行。その後功績が認められ、スペインへ国費留学し、バスクの三つ星レストラン〈AKELARRE(アケラレ)〉で研鑽を積んでいる。日本では数少ない、バスク料理を熟知した料理人の一人だ。ホセマ氏、山口氏とも長い付き合いの友人関係である。
「現地で吸収した多くの学びを日本に広めることが使命であり、今回のプロジェクトは自分にとってはスペインへ恩返しさせてもらえる絶好の機会だと思っています。ここはサンセバスチャンの現地の一部なのだというつもりで、本当のバスク料理をお客様にお届けできたら嬉しいです」と中武シェフの言葉には熱がこもる。料理のクオリティはもちろんのこと、本物のバスク文化を体験できるような場所として、居心地の良い場の空気感を大切にし、スタッフの人格育成にも力を注いでいる。

「ZazpiもCasa Urolaも現地では人気の店ですし、日本人客も多く来ています。本場のバルを感じてもらえる場所にしたいし、日本でやることでさらにグレードアップしたものを提供できたらと思っています。また、私がバスクで学んだことは、料理はもとより人の和、真心、人情深さ。バスク人って真面目で恥ずかしがり屋な人が多いのですが、何かあったときは本気で心配し、助けてくれる優しくて温かい人々。そういう人間的な懐の深さも含め、バスク文化に敬意を払い、この場所で表現していきたいと思っています」(中武シェフ) 


20210719_00235_12.jpg
IZURUN(イスルン)シェフ 中武 亮
IZURUN9_11.jpg
IZURUN(イスルン)ディナーメニュー


100%本物のサンセバスチャンであり、本当の日本が根底に流れる料理を

長年現地で生活しているホセマ氏や山口氏は、実際にバスクという土地の魅力をどのように感じているのだろうか。
「私は魅力を聞かれたらいつも、それは中身です、と答えるんです」と山口氏。 「ここに住んでいる人たちが本当に素晴らしい。真面目で勤勉、物事を真剣に行う。時間に遅れないし、約束事は守る。この辺りは日本人と似ていますね。そういう人たちがいる地域なので、民度が高く、住みやすい。そして自分の周りにあるものを大切にしている。自分たちの街や暮らし、仕事、趣味、家族など、ささやかな日常に幸せを見つけることが上手。物事の考え方が前向きでポジティブなんです。自分の街が大好きで楽しい、っていう気持ちがにじみ出ている。そういうこの土地の良い部分をもっと知ってもらうことで、気付きや学びがあり、日本の良いところも見つけられるんじゃないかなと思います」 

美食に関していえば、バスク人は食べることをとても大事にしている、とホセマ氏はいう。 「例えばバルは生活の一部で社交の場。人々は食を囲んで交流しています。食が中心となった人間関係がある。日本だと居酒屋はそれと同じかもしれませんね。バルは世界中どこにでもある、人が集まる場所ですが、サンセバスチャンが他と違うところは、それが美食の街として、圧倒的に美味しいものを提供している。美味しいものをどうしても食べたくて人々が集まってくる、という点です」

バスク地方はミシェランの星付きレストランが世界的に最も多い地域としても有名であるが、そういった一流レストランが、決してお任せコースだけに甘んじることなく、いくつかメニューを選択できたり、アラカルトを提供していたりすることも、この地域ならではの大きな特徴だという。

「世の三つ星レベルのレストランはだいたいもうメニューが決まっていて、他には選べない。それがバスクの場合、客に選ぶ喜びを味わせてくれるんです。例えばお寿司だって、お任せももちろんいいけれど、それじゃあ面白くないっていう食通がいるでしょう。選べることが食の楽しみじゃないですか。料理人は手間もかかるし大変に違いないのですが、でもその方が絶対に面白い。彼らはこだわりと愛情を持って料理を作っているんです。客のニーズや希望に合わせて対応することができるのは、この地域の料理人のレベルの高さを物語っています」 レストランの語源は「休息を与える」というところから来ている。訪れた人は食べることでホッと体を休ませ、喜びで心が満たされる。そんなおもてなし精神がバスクには残っているのだと、ホセマ氏は語る。

ではVISON内のバスクレストラン、サンセバスチャン通りに、二人はどんな期待を寄せているのか。ホセマ氏は、「サンセバスチャンらしさを100%きちんと反映させて欲しい。そして同時に、日本人がやっているレストランであって欲しい」と力強く答えた。

「なぜかというと、僕はあまりフュージョンを好まず、それは本質ではないと思う。本物のサンセバスチャンであり、そして本当の日本らしさが根底にある料理であって欲しいのです」

この話を一緒に聞いていた中武シェフが目を見開き、思わず口を挟んだ。

「実はその言葉と全く同じことを40年近く前に、私の師匠である深谷が、ルイス・イリサールに言われたのです。バスクの人々は自分たちの土地を愛していて、本当に愛したものを世に広めて欲しいと願っている。バスク料理の真髄を伝えて欲しいと」


最後に二人に、VISONで何かやってみたいこと、提案したいことはあるかと聞いてみたところ、ホセマ氏は「美食倶楽部が欲しいなあ」と楽しそうに答えた。美食倶楽部とは、こちらもバスク特有の文化で、キッチンをシェアして自分たちで料理を作り、人々を招待して楽しむ会員制の集まりのことだ。100年以上前から続いている伝統的風習である。バスクの美食レベルが高いのは、誰もが自分たちで実際に料理を作り、伝えていくことにもある。ここにはプロ級の腕前の作り手がいるかと思えば、料理評論家かと思うほど高いレベルを要求する食べ手もいるそうだ。「VISON内にはマルシェもあるようだし、バスク文化を伝える、人々の交流の場としてシェアキッチンがあると面白いんじゃないかな」

山口氏は「料理人だけでなく、バスクのアーティストとも文化交流できたらいいなと思う。例えばサンセバスチャンでは少し前にシェフとデザイナーがコラボした一皿、というユニークなイベントがありました」と提案。「それから農家さん、漁師さんなど、バスクの食の生産者と、日本の生産者を引き合わせてみたいです。なかなか生産者同士って交流する機会がないように思うんです」

ホセマ氏、山口氏は、今後もVISONのバスク部門として、現地のあらゆる情報、本場の空気を運んでくれる大切な仲間である。多気町・VISONはこれからもサンセバスチャンと深い絆で結ばれ、誠実な交流を続けていく。 



MENU