VISON Beautiful Village in TAKIVISON Beautiful Village in TAKI

井村屋が手掛ける酒蔵。日本酒を通じて「三重県のテロワール」を日本へ、世界へ

井村屋が手掛ける酒蔵。日本酒を通じて「三重県のテロワール」を日本へ、世界へ

続きを読む

fi-v_c01_1.jpg


「あずきバーでおなじみの井村屋が日本酒業界に参入」と、大きな話題を呼んでいる酒蔵「福和蔵(ふくわぐら)」。2022年現在、日本酒を製造することができる「清酒製造免許」の新規交付は制限されているが※、縁あって、三重県伊賀市にあった福井酒造場の事業を井村屋が継承。醸造所をVISONに移転し、福和蔵のオープンが実現した。井村屋が酒蔵を手掛けるきっかけをつくった浅田剛夫会長(中央)と、福和蔵の日本酒づくりを管理する酒造部部長の安田裕幸さん(右)にお話をうかがった。


※2019年より、輸出向けの日本酒に限っては免許の新規発行が認められるようになった。


「四季醸造」で、1年中フレッシュな日本酒が味わえる

ーー福和蔵では現在どんなお酒をつくられているんでしょうか。


安田さん:大きくは、「純米大吟醸酒」「純米吟醸酒」「純米酒」の3種類です。それぞれに1回火入れと生酒がありますので、ラインナップとしては6種類の日本酒を製造・販売しています。

浅田会長:福和蔵では当初より「テロワールに根ざした酒造り」を掲げています。「テロワール」とは、酒造りにおける気候・土壌・地勢などの自然環境を指すワイン用語。井村屋創業の地でもある三重県で酒蔵を運営するならば、三重県の素材にこだわり、ここでしかつくれない日本酒の味をめざすべきだと考えました。

そうしたコンセプトのもと、酒米は三重県産の「五百万石」と「神の穂」、「山田錦」の3種類を、仕込み水には三重県松阪市飯高町のまろやかな硬水を使用しています。酵母は、三重県で開発された「MK-1」と「MK-3」 を採用しました。

また、1年を通じて酒を仕込む「四季醸造」である点も福和蔵の特長のひとつ。日本酒は気温の低い冬場に仕込む「寒造り」が広く知られていますが、福和蔵では、温度管理と品質管理を徹底することで季節に関係なく酒造りをおこなえますので、お客さまにはいつでも作りたてのお酒をお買い求めいただけます。 



fi-v_c02_2.jpg醸造所は、温度を細かくコントロールし冬の環境を再現。夏でもひんやり肌寒い


fi-v_c03_3.jpgタンク内の温度変化は、センサーで365日24時間チェック。異常があるとスマホに通知が届く


日本酒業界の背景を知り、酒蔵の事業継承を決意

ーー井村屋が酒造りを手掛けることになったきっかけとは。


浅田会長:三重県で日本酒や焼酎の醸造を手掛ける「宮崎本店」の会長から、「老朽化や後継者不足で困っている福井酒造場という酒蔵がある」と相談を受けたことがはじまりでした。はじめは井村屋が日本酒業界に参入するとは思っていませんでしたが、三重県内の酒蔵が減り続けている現状や、日本酒製造の新規参入はほぼ不可能であるとの背景を知り、なにかできることはないだろうかとさまざまな可能性を探り始めることに。もともと私自身お酒好きということもあり、日本酒がダウントレンドだと言われることに寂しさも感じていました。また、周囲からの「違う業界の井村屋が日本酒業界に挑戦することで、新しい風を吹かせてほしい」との言葉にも背中を押されました。 


当時すでにVISONへの「菓子舗 井村屋」の出店が決まっていたので、それとは別に日本酒の製造・販売施設をつくれないだろうかと提案したところ、快い返事をいただけました。そうした経緯を経て酒蔵をつくるプロジェクトがスタートしたのですが、社内では「会長がおかしなことを言い始めた」と思われていたかもしれません(笑)


安田さん:そんなことないです(笑)


浅田会長:プロジェクトを進めるにあたっては、安田をはじめ、偶然にも社内に醸造知識を持った人材がいたことはとても幸運でした。彼もその一人です。


安田さん:私の役割は、福和蔵の醸造施設を設計し完成させること。決して広くはないスペースのなかに、水のタンク、米を蒸す部屋、麹室、タンク室、瓶詰めやラベル貼りをおこなう場所、完成品の保管スペースを確保する必要があり、頭を悩ませました。動線を何度もシミュレーションしながら機械化と手作業を取捨選択し、より効率よく、衛生的に保てる方法を採用しています。


fi-v_c04_4.jpg酒造り経験を経て井村屋に就職した安田さん。生産技術部にてさまざまな工場の設備導入を担当


fi-v_c05_5.jpg


fi-v_c06_6.jpg洗った酒米を大きな蒸し器に入れてならし、一気に蒸し上げる


fi-v_c07_7.jpg蒸し上がった米は、人の手で運んでタンクの中へ


fi-v_c08_8.jpg仕込室には冷却機能のついたタンクが合計7本 あり、おおよそ週に1本のペースで新しい酒を仕込める設備


安田さん:一度の上槽(※圧搾して日本酒と酒粕に分ける作業)で約240kg の酒粕が出るのですが、その酒粕をあんまんの生地や日本酒味のあんこに使用するほか、グループ会社で酒粕パウダーの一部原料として使用しています。また、吟醸酒のもろみは「菓子舗 井村屋」で販売する「酒々まんじゅう 芳醸菓(ほうじょうか)」専用に仕込んでいます。

ブランドの知名度を高め、将来的には海外へも広めたい

ーー今後の福和蔵のビジョンを教えてください。


安田さん:まずは、現在販売している商品をもっとブラッシュアップしていくこと。加えて、異業種からの参入だからこそ、これまでの「日本酒はこうあるべき」という枠組みにとらわれない商品開発や取り組みにも挑戦していきたいと思っています。


浅田会長:今年5月、令和3酒造年度全国新酒鑑評会において初仕込酒の純米大吟醸が入賞することができました。初出品で初入賞をいただけたことはとても喜ばしく、大きな自信になったものの、福和蔵の知名度はまだまだ高いとは言えません。まずはこの直売所を通じて一人ひとりのお客さまに福和蔵の酒のおいしさを知ってもらうと同時に、コンテストなどを通じて第三者からの評価を高め、福和蔵というブランドを拡大することが直近の目標です。そしてゆくゆくは、アメリカやヨーロッパでの販売も展開できたらと思っています。


人の真似をしない「特色経営」という考え方は、井村屋が創業以来掲げている経営ポリシーです。VISONへの出店や日本酒業界への参入もその考えの延長線上にあるもの。「日本の食文化を体感する」とのコンセプトを掲げるこの場所から、新しいことに挑戦し、井村屋らしい発信を続けていきたいですね。


井村屋が手掛ける酒蔵。福和蔵の店内では、日本酒とともに「さめのたれ」など三重県の肴とペアリングを楽しめる。浅田会長のおすすめは和菓子。「実は日本酒とあんこの相性はとてもいいんですよ」と、浅田会長


MENU